4人組ロックバンド[Alexandros]のボーカル兼ギタリストの川上洋平さん。青山学院大学在学中にバンドを結成し、卒業後はいったん会社に就職して、音楽活動を続けました。夢をかなえるための道のりや、地元・相模原への思いについて、聞きました。(朝日新聞Thinkキャンパス・平岡妙子編集長)
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「音楽以外は無理」とわかった
――大学卒業後、就職して働きながら音楽活動を続けていたそうですが、就職して3年も経つと、「もう音楽は無理かも」と思うことはありませんでしたか。
あったかもしれないけれど、なかったです(笑)。会社勤めの経験を通して、「バンドで何かをなしえないと自分はダメになる」「音楽以外は無理」とはっきりわかりました。それはたぶん、メンバーの磯部(寛之)くんや白井(眞輝)くんも同じだったんじゃないかな。仕事がきついときも、「この仕事でお金を稼いで、スタジオ代や機材代にする」と思えば、そこまで大変ではなくなります。
――会社を辞めたきっかけは何でしたか。
デモテープをいろんなところに送っていたら、今の事務所から声がかかりました。ちょうどその頃にリーマン・ショックがあって、勤めていた会社が外資系だったこともあり、早期退職希望者を募るという連絡がありました。会社としては定年に近い方を対象にしていたはずですが、「この退職金があればバンドの機材車が買える」と思ったし、デビューも決まりそうだったので、ここで辞めようと手を挙げました。先輩社員には「お前のための早期退職じゃないぞ」と言われたし、実際、退職金も貰えませんでしたが(笑)。
――[Alexandros]は2015年にメジャーデビューし、数々のヒット曲を出してアリーナツアーを行い、バンドとして大きな成功を収めました。川上さんは22年9月に青山学院大学の礼拝堂でチャリティーライブを開催し、24年3月には青山学院記念館で「青山学院凱旋(がいせん)ライブ」を行いました。
礼拝堂でのライブは青山学院150周年の宣伝大使を務めている俳優の高橋克典さんに声をかけてもらいました。「神聖なチャペルで、自分たちの曲をかき鳴らしていいのだろうか」と思いましたが、やってみたらとても気持ちのいい空間で、自分たちらしいライブができたと思います。記念館での凱旋ライブもすごく楽しくて、いい思い出になっていますね。
――凱旋ライブの1曲目は「Aoyama」という曲だったのですね。もしかして、この曲は青学時代の思い出などを書いたのでしょうか。
いえ、実はそうではなくて。でもせっかくの凱旋ライブなので、「あおやま」つながりでこの曲から始めてみました(笑)。「AOYAMA」という響きが好きなんです。もちろん、母校がある場所だからということもあります。バンドの仲間と出会えた場でもあるし、街やそこで過ごしている人たちの雰囲気もすてきで、ここを訪れるといつも刺激をもらっています。
穏やかな雰囲気の地元が好き
――24年10月には、バンド主催で野外フェス「[Alexandros] presents THIS FES ’24 in Sagamihara」を行います。川上さんの地元、相模原で行われる本格的なフェスですね。
数年前に相模原市が発行しているフリーペーパーの取材を受けたとき、市役所の方が「相模原でフェスをやってほしいです」と言ってくれました。そのときは「やってみたいけど、今はそんな余裕はないな」と思いましたが、去年、話が具体的になってきて。相模原には実家があるので、今もよく帰るところです。もし自分たちが地元を盛り上げられる立場にいるのだとしたら、お力添えしたいという気持ちもありました。
――相模原の好きなところは、どんなところですか。
相模原は、1時間あれば温泉地にも行けるし、都会にも出られます。そういうニュートラルなところが、相模原の人たちの穏やかな雰囲気につながっているのかもしれないですね。僕は子どもの頃に父親の仕事の関係でシリアに行ったので、ちょっと違うのかな。ずっと相模原市にいたら、どんな性格になっただろうと思うこともあります。
――相模原のフェスもそうですが、川上さんのキャリアは「音楽という夢をかなえる」という軸がしっかりあります。今の高校生、大学生のなかには、「自分の軸とするもの、目標にするものが見つからない」という人も少なくありません。
僕はラッキーなんですよ。小学生の頃から音楽が好きで、おぼろげながら「これを仕事にしたい」と思っていました。ただ、やりたいことは見つけようとして見つかるものではない気がしています。これも就職していたときに感じたことですが、とりあえず好きなものがあればいいと思うんです。たとえば、「好きなアイドルを追いかけたい」でも、「プラモデルを集めて作っていたい」でもいい。それを仕事に結びつけることはできなくても、「好きなことをやるために仕事を頑張る」というのもカッコいいじゃないですか。
――「好き」という思いの種を育てることも大事なのかもしれないですね。
自分のことで言えば、洋楽を好きになったことが大きかったです。シリアにいた頃はヨーロッパのMTVを見ていましたが、アメリカやイギリスだけではなく、インドやフランスの音楽がどんどん入ってきて、音楽の可能性をすごく感じました。当時はオアシス(イギリスのロックバンド)がアメリカに進出していた時期で、「もしかしたら日本からも世界に出られるんじゃないか」とワクワクしました。
つまり海外の音楽を知ることで、自分のなかでいろんな発見があったんです。だから、とりあえず海外に行ってみるのもいいと思います。しばらく暮らせば言葉を話せるようになるだろうし、恋人ができるかもしれない(笑)。そのなかで日本では見つからなかった「好きなこと」「やりたいこと」に気づくかもしれません。
――大学選びに悩んでいる高校生にアドバイスはありますか。
できるだけレベルが高いところを目指してほしいです。自分のマックスのちょっと上くらいを狙って、ちょっと背伸びするほうがいいんじゃないかと思います。限界を超えようとすることが、力になる。やっぱり環境って大事だと思うんです。そのなかで得られることも変わってくるし、「もっと頑張らなくちゃ」という気持ちにもなります。学生であれば、自分よりもできる人たちと一緒に勉強したり生活したりすることで、レベルアップにつながると思います。
――中高校生の子どもを持つ保護者へのアドバイスはありますか。
最初の「壁」になってあげられるのが親だと思うんです。お子さんが何かをやりたいと言い出したときに、「無理だからやめたほうがいい」と思えば、そう言ってあげればいい。もちろん手助けするのも正解だし、大事なのは自分の意見をはっきり伝えることじゃないかなと思います。
僕の親も、音楽活動にずっと反対していました。親の気持ちもよくわかっていたので、会社を辞めてバンドでデビューしてからも、しばらく内緒にしていました。報告したのは、本当に音楽活動だけで生活できるメドが立ってからです。それまではスーツを着て会社に行くふりをして家を出ていました。
両親から反対されたことは、逆に「やってやる」という気持ちになりました。厳しいかもしれないですが、「反対されたから辞める」というのであれば、その程度なのだと思います。社会に出たらもっと大変なことがあるし、反対する親を説得して見返すくらいのパワーがないとやっていけないと思います。僕の親も、初の武道館ライブの頃から応援してくれるようになりました。ただ、「お前のバンドは紅白には出られないだろうな」と言われたことがずっと心に残っていて悔しいので、親が元気なうちに、NHK紅白歌合戦に出たいと思っています(笑)。それがいまの僕の目標ですね。
[Alexandros] 川上洋平/1982年、神奈川県生まれ。ロックバンド[Alexandros]のボーカリスト兼ギタリスト。9歳から14歳までシリアで過ごした経験を持つ。2007年、青山学院大学法学部卒業。24年9月18日ニューシングル「SINGLE 2」が発売。
(文=森 朋之 撮影=今村拓馬 ヘアメイク=坂手マキ(vicca))